今回は東洋医学で見る「腎臓」の働きです。
西洋医学では
1)老廃物を体外へ排出する
2)血圧を調整する
3)血液をつくるホルモンを出す
4)体液量やイオンバランスを調整する
5)骨をつくる
です。
東洋医学ではどのような働きがあるのでしょうか!
腎は精を蔵する
「精」というのは生命活動を維持する基本物質のことで、「先天の精」と「後天の精」があります。精は生命力と成長や生殖力の根源であります。
「先天の精」というのは、両親から受け継いだ生殖の精のことで、生命の素となるものです。生まれてから減る一方で増えることはないので、後天の精によって補われています。
「後天の精」とは飲食物(水穀)からえられる精のことで、営気・衛気・宗気・津液・血の素となり、脾胃で造られ、先天の精気を助けています。
五臓六腑の精気は飲食物に由来し、人体の生命活動を維持する基本的な栄養物質で、それは腎に貯蔵されています。腎の精気はこの五臓六腑の精気により養われ強くなりますが、五臓六腑の需要に応じて腎から五臓六腑に供給されてもいます。ですから、腎精が不足すれば五臓六腑の精気も不足し、機能も低下することになり、多くの病気が引き起こされる原因にもなります。
腎は成長・発育・生殖を主る
腎気
腎気は両親の先天的な精気を受け継いだもので、出生後、腎気は後天的な飲食物の精気の助けを得て次第に充実していき、人体の成長・発育を促進させます。
よく女性は7の倍数で、男性は8の倍数で成長すると言われているのは、「素問・上古天真論」という中国最古の医学書に書かれているもので、これは腎気と人の成長発育の関係を示しています。
女子は 7歳 腎気が盛んになり、歯が生え変わり、髪が伸びる。 14歳 天癸(人体の成長発育と生殖機能を促進するために必要とされる物質)が出て任脈が通り、 衝脈が盛んになり、月経が始まり子どもをうむことができる。 21歳 腎気が成人の正常状態に達するので、親知らずが生え、歯が全部生えそろう。 28歳 筋骨が丈夫になり、毛髪が増え、身体は壮健になる。 35歳 陽明脈が衰え始め、顔色の色つやがなくなり、髪が抜け始める。 42歳 三陽の経脈が上半身で衰え、顔に疲労感が出て、白髪が見え始める。 49歳 任脈が虚し、太衝脈も衰え、天癸は尽き、月経がとまり、体は衰える。 男子は 8歳 腎気が充実し、頭髪が長くなり、歯が生え変わる。 16歳 腎気が盛んになり、天癸が出始め、精気が充満し射精する。子どもがつくれるようになる。 24歳 腎気が成人の正常状態に達し、筋骨が強堅になり、親知らずが生えて、歯が生えそろう。 32歳 筋骨が充実し、脂肪がつき始める。 40歳 腎気が衰え、毛髪が抜けて歯が悪くなり始める。 48歳 陽気が上半身から衰え始め顔がやつれ、疲労感が現れ、白髪が出始める。 56歳 肝気が衰え、筋肉が思い通りに動かすことができず、天癸は尽き、精液が乏しくなる。 64歳 歯と頭髪が抜け落ちる。
腎陰・腎陽
腎の精気は「腎陰」と「腎陽」があります。
腎陰=「元陰」「真陰」「腎水(命門の水)」ともいい、人体における陰液の根本であり、各臓腑や組織器官を滋養し潤す働きをしています。
腎陽=「元陽」「真陽」「命門の火」ともいい、陽気の根本で、各臓器や組織器官を温めて育てる働きがあります。
五臓六腑の陰は全て腎陰によって滋養され、五臓六腑の陽は全て腎陽によって温養されています。つまり、人体の内臓の機能や成長・発育・生殖は腎水・命火の働きに依存しているということです。
腎陰が不足すると・・・
- 肝陰の不足を引き起こし(水不涵木)、めまい・イライラ・痙攣などの症状が起こります。
- 心陰の不足を引き起こし(心火上炎)、動悸・不眠などの症状が起こります。
- 肺陰の不足を引き起こし、空咳・喉の乾燥・寝汗などの症状が出ます。
腎陽が不足すると・・・
- 脾陽の不足を引き起こし(脾腎陽虚)、水溶性の下痢が起こります。
- 心陽の不足を引き起こし(心腎陽虚)、動悸・遅脈・喘息などが起こります。
腎は津液を主り、全身の水分代謝を調節する
胃によって受納された津液は、脾の運化作用により肺に送られ、肺の宣発作用で胸中から全身に運ばれます。その後、津液は肺の粛降作用と腎の納気作用により腎に集められ処理されます。
腎はその津液を気化作用によって清濁(必要な部分と不必要な部分)に分けます。
清の部分
腎陽の蒸騰作用と腎気の固摂作用によって生体に必要な水液を貯留し、再び胸中に戻して再利用します。これは「合(閉)」の機能で、この機能が失調すると、気が水を蒸騰しないので津液の再利用ができず、全てが尿として排出されます。そのため排尿量が多くなったり、尿の色が無色になったりします。
濁の部分
腎陽の温化作用と腎気の推動作用によって生体に不用な水液を膀胱に送り、尿として排出します。これは「開」の機能で、この機能が失調すると、濁液の排出機能に異常が生じて尿量が少なっかったり、浮腫が生じます。
このように腎は「水液の貯蔵・散布・排泄」という水分代謝を調節し、体内の津液代謝の平行を保つ機能を持っているので、「腎は水液を主る」も言われ、この機能を主水作用と言います。
腎は納気を主る
「納」=固摂・受納を意味します。
「納気」とは吸入した清気を深く吸い込む機能のことで、腎は呼吸機能とも深く関わっており、呼吸の「吸気」の方と関係しています。一方、「呼気」は肺の宣発により行われています。
肺の呼吸は腎の納気作用がなければ浅くなり、取り込んだ清気は腎に達することができません。腎の納気作用により、吸気を臍下丹田まで取り入れて、精を元気に化し、これを活性化させます。この機能が正常でなければ、規則正しく穏やかな呼吸はできず、息切れがしたり、浅い呼吸になったり、呼吸困難などの症状が現れます。
腎の志は「恐」
恐れの感情は腎臓が作り出していると東洋医学では考えられています。「驚」も「恐」の感情と似ているので、腎に属しています。
ですから、恐れすぎたり驚きすぎるのは腎気を傷つけることになります。
腎は骨を主り、その状態は髪に反映する
腎精は髄を生育します。髄は骨の中にあり、骨や体を成長発育させるために栄養を与えています。
「髄」には「骨髄」「脊髄」「脳髄」の三つがあり、どれも腎の精気によって造られ、骨に覆われています。「脊髄」は脳に通じており、髄が集まって脳になります。(脳を「髄海」とも呼びます)
ですから、腎の精気が足りなくなると、骨が弱くなったり、腰が曲がったり、記憶力・分析力・考える力などの低下が起きたりします。
そして、「歯は骨の余り」とも言われており、歯も腎の精気で養われているので、腎の精気が不足すると歯が弱くなったり、抜けたりします。
また、髪の毛には腎の状態が現れると言われています。毛髪は腎の精気と血によって栄養されているので、腎の精気や血の不足は白髪や抜け毛を招きます。
腎の液は唾
唾液の「唾」は口の津液でも粘っこいもののことを言います。逆にサラッとしていて水っぽいものを「涎」と言います。
唾液は腎から直接出た津液で、唾は腎の精気が変化したものです。ですから、唾液を飲むと腎の精気を養うことができます。逆に唾液が多量に分泌されると腎の精気を消耗することになります。
腎は耳と二陰に開竅する
腎は上部では耳に開孔し、下部では二陰(前陰=排尿器官と生殖器、後陰=肛門)に開孔しています。
どうでしたか?
東洋医学での腎臓の働きは西洋医学と比べると、
もちろん違うところもありますが、似ている部分が多くあったのではないかと思います。
ただ、東洋医学では腎臓が
人の成長や生殖機能、脳や毛髪、恐れの感情や呼吸、耳や肛門などとも関係しているということは、皆さんも初めて知ったのではないでしょうか?
東洋医学は本当に奥が深くて、興味深い学問です。