耳つぼ療法

鍼灸
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「耳つぼ」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか?
私はよく「肩こり」に耳つぼを使っています。

これが結構よく効きます。


耳を刺激することでどうして肩に影響が出るのでしょうか?
今回は「耳つぼ」についてお伝えしていきます。

「耳つぼ」とは

「耳つぼ」とはそもそも一体どういうものなのでしょうか?


耳つぼを使った治療法(耳介治療)は1950年代にフランス人のポール・ノジェ(Paul Nogier)医学博士によって考案されたものです。


ノジェ博士がフランスのリヨンで整形外科医として開業していた時、博士に治せなかった坐骨神経痛の患者たちが、耳に焼灼治療を行う民間療法を受けたら慢性の坐骨神経痛が治ったと話しており、ノジェ博士もその民間療法を習い、これを応用して耳に鍼を刺しても治るのではないかと考えたところからこの耳介治療が始まりました。
実際、民間療法で焼灼していた耳の部分に鍼を刺したら腰痛や坐骨神経痛が改善しました。


そして、耳は胎児が子宮の中にいる時の赤ちゃんの全身の姿を反映しているという「耳の胎児投影説」を唱え、耳には身体全体が投影されていると考え、耳介に四肢や内臓器官などを配置し、鍼を刺す刺激点を考案しました。それが「耳つぼ」と言われているものです。

1987年 WHO/WPRO(WHO西太平洋地域事務局)がソウルで第3回鍼灸経穴名称標準化国際会議を開催し、耳穴名称の標準化にあたり中国鍼灸学会から提出された90耳穴をベースに議論し、フランスのノジェ博士の流派と中国鍼灸学会の流派とを統合し、90耳穴の中で43耳穴に番号が付けられました。


1990年 WHOがフランスのリヨンで耳穴標準会議を開催し39穴が採択されましたが、内生殖器や心・脾・胃といった五臓のツボ36穴は継続審議となりました。


1992年には中国政府は『耳穴名称与部位』を出版し、91穴を中国の国内標準としました。
2013年には世界鍼灸学会が標準耳穴決議を出しましたが、内容はほぼ中国の標準となっています。


現在、世界中で中国の耳穴が流通していますが、これに対して欧米では新しい耳鍼が提案されているようです。

どうして耳が全身に影響するのか

西洋医学的視点と東洋医学的視点から見ていきたいと思います。

西洋医学的視点

耳には三つの神経が関係しています。

  1. 三叉神経(第三枝下顎神経)=交感神経繊維
    下顎全体にわたって分布しており、下顎・下顎の歯・歯茎・下唇・頬・頬粘膜・外耳の一部・舌の前3分の2の粘膜における感覚・咀嚼筋の運動を司っています。運動神経と感覚神経を含有している混合神経です。
  2. 迷走神経=副交感神経繊維
    脳神経の中で唯一腹部にまで達する神経で、声帯・心臓・胃腸・消化腺の運動、分泌を支配します。首からお腹までのほとんど全ての内臓の運動神経と副交感性の知覚神経を支配しています。
  3. 頚神経叢=混合支配(運動神経・感覚神経・自律神経のいずれか同士が混在している神経による支配を指しています。)
    脊髄神経から分岐し頭・首・上肢のうち頭・顔・首へつながる神経叢のことで、首や横隔膜などの運動、後方の頭部から肩にかけての感覚を司っています。
引用元:『Nogier博士の耳介治療ハンドブック』p13
図6 J.Bossyによる耳の神経支配

耳の内側には副交感神経が、耳の外側には両方が混じった神経、残りの部分には交感神経が通っています。

この交感神経副交感神経というものは自律神経と言われているものです。自律神経とは自分の意思とは無関係に24時間働き続けている神経で、呼吸・血液循環・体温調節・排泄・消化などを無意識に調整しており、生命維持に欠かせないものです。

交感神経は「闘争・逃走神経」と呼ばれているように、激しい活動を行っている時に活発化する神経なので、心拍数が増加し、血圧が上がり、瞳孔が散大し、汗の分泌などが生じて、心と体が興奮状態になります。基本的に昼間に活発になります。

逆に副交感神経が優位に働けば血圧が下がり、心拍数が減少し、瞳孔が収縮し、心と体が休んでいる状態になります。この時、内臓は一生懸命働いています。基本的に夜間やリラックスしている時に活発になる神経です。


この2種類の神経のバランスが崩れてしまうことを「自律神経失調症」と言い、自律神経の乱れから
夜なのに交感神経が優位になって眠れなくなったり、昼の活発に活動しなければならない時にだるくなり眠くなったり、ひどくなっていくと不安感・頭痛・肩こリ・動悸・不整脈・めまい・不眠など様々な症状が心身に現れるようになります。


この自律神経のバランスがどう作用するかによって心身の調子が変わります。全ての病は自律神経の失調からきていると言っている人もいるくらい、自律神経の働きはとても重要になります。


耳には交感神経と副交感神経がそれぞれに通っており、
副交感神経が通る耳の内側には内臓に関係した耳穴が多く、交感神経が通っている耳の外側には手足の耳穴が多くあります。耳たぶ付近は交感神経と副交感神経が混じっており、それぞれの神経が関係している部位に鍼をしたり刺激を与えることで、その神経が支配している身体に影響を与えると考えられています。

東洋医学的視点

黄帝内経『霊枢』口問篇には「耳は各経絡が集中している」とあります。12経脈は直接または間接に耳と繋がりがあります。

  1. 足の陽明胃経と足の太陽膀胱経は耳前を走り、耳上角に至ります。
  2. 手の陽明大腸経・手の少陽三焦経・手の太陽小腸経・足の少陽胆経は各々の支脈を出して耳の中に入ります。
  3. 6つの手足の陰経(手の太陰肺経・足の太陰脾経・足の少陰腎経・足の厥陰肝経・手の少陰心経・手の厥陰心包経)はそれぞれ正経から別れて別行する6対の経脈である「経別」を介して陽経に合して耳に通じています。
  4. 五官(目・舌・口(唇)・鼻・耳)の五つの器官と五臓(肝・心・脾・肺・腎)との関係で、
    耳は腎に属しています。

経脈は全身を巡っています。つまり、耳を刺激することでその刺激した部位の経脈に影響を与え、その経脈に関係した身体症状が改善されるということです。

方法

  1. 視診・触診・電気測定などにより使用する耳穴を選択します。

  2. 手指や鍼の柄など先の細いもので刺激を与えて圧痛点の部位、強さを確認します。

  3. 選択した耳穴に鍼をしたり、置鍼をしたり、電気を流したり、生薬の粒や磁石・チタン・樹脂やとても短い鍼がついたシールを貼るなどをして治療をします。

*日本で行われている「耳つぼセラピー」は、耳穴に金やチタン、セラミックがついたシールを貼り、
耳穴に刺激を与えているものです。

実際にやってみる

  1. 用意するもの
    ・耳穴がわかるもの。例えば「ポイントマスター」(下記にご紹介しています。)

    ・耳穴を押すもの。耳つぼ押し専用のスティックを使用し安全に行って下さい。(こちらも下記にご紹介しています。)

    ・アルコール消毒綿

    ・耳つぼ用のシール、または「こりスポッと」

  2. 耳全体を軽く揉みます。結構痛い部分もあるので、最初は優しく少しずつ硬い部分をほぐすように揉んでください。

  3. 耳全体をアルコール消毒綿で拭きます。

  4. 必要な耳穴を選び、その周辺を耳つぼスティックで押し、一番痛い部分にシールを貼ります。痛い部分がなければ、必要な耳穴の位置にシールを貼って下さい。

  5. シールを貼った部分を再度軽く刺激して終わります。

注意事項
・妊娠している方、もしくはその可能性のある方はしないで下さい。
・シールを貼って、痒みが出たり、発疹が出たり、何らかの異常があればすぐに剥がして下さい。
・つけたシールは衛生上1週間以内に剥がして下さい。
・傷やかぶれなどがある部位はスティックで押したり、シールを貼ったりしないで下さい。
・金属アレルギーのある方はアレルギーの出ない粒がついたシールをお選び下さい。
・心身の変化には個人差があります。
・周りに子どもやペットなどいない状態で安全な環境で行って下さい。
・自己責任のもと行って下さい。

参考文献
『Nogier博士の耳介治療ハンドブック』 Raphael Nogier(著) / 向野義人(監訳) CBR
『耳穴 臨床解剖マップ』 王 暁明(著)  医歯薬出版株式会社
『耳鍼の最新情報 2020年版』 早川敏弘(著) 

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