
こんにちは!
みなさんの中に「冷え性・関節痛・喘息・慢性気管支炎など」冬に悪化するような疾患や症状を抱えている人はいますか?
「冷え性がつらいのは冬だけど、夏に治すってどういうこと?」と思っている人もいるかもしれませんね。
実は東洋医学には「冬病夏治(とうびょうかち)」という考え方があります。
これは、冬の病は夏に治すというものです。また、夏を適切に過ごさなければ、その影響は秋に出ると言われます。
今回は、「夏の過ごし方」についてお伝えしていきます!
冬病夏治(とうびょうかち)
東洋医学には「冬病夏治(とうびょうかち)」という考え方があります。
これは「冬に現れる慢性的な症状は、夏のうちに手当てすることで改善できる」という昔の知恵です。
現代でも、冷え性や喘息、慢性の関節痛などがある方にとって、夏は体質改善のベストシーズンなのです。
夏は陽氣(あたたかいエネルギー)が最も盛んな季節。私たちの体もその影響を受けて、血流がよくなり、氣の巡りも活発になります。
冷えや関節痛や喘息などの冬の病の多くは「寒」によるもので陽氣の不足が原因です。ですから、夏の陽氣が盛んなこの時期に体に陽氣を取り入れ、冷えや余分な湿気を体から排出したり、弱った内臓機能を整えたりと、病の根本を改善させることで、冬の症状の軽減を目指すのが冬病夏治です。
夏の不摂生が秋の病の原因になる
中国最古の医学書『黄帝内経(こうていだいけい)』に次のようなことが書かれてあります。
夏に暑気に傷られますと、たとえその時すぐに発病しなくても、陰陽の調和がとれておりませんので、そのままで秋になって清涼の気にさらされた時に、おこりを病みます。
『素問』 たにぐち書店
「おこり」とは漢字で「瘧」と書きます。
これは、現代でいうところのマラリアのような、寒気と発熱を周期的に繰り返す病です。
- 身体がゾクッと冷える
- しばらくすると発熱して汗が出る
- これが数日ごとに繰り返される
このような症状は、夏に陽氣(体を温め、外に向かう力)が損なわれたことで、体内のバランスが崩れた結果とされます。

夏の養生法を知る前に、まずは「夏」について学んでいきましょう!
夏とは
暦の上で夏は立夏から立秋の前日までを言います。
年によって変わりますが、大体5月5日頃から8月6日頃までです。
夏の三ヶ月は「蕃秀(ばんしゅう)」
『黄帝内経(こうていだいけい)』には、四季それぞれの時期にふさわしい過ごし方が明確に示されています。その中で、夏の三ヶ月は「蕃秀(ばんしゅう)」と呼ばれています。
この言葉には、草木が盛んに茂り、花が咲き、実を結ぶという、自然界の生命力が最も充実する季節であるという意味が込められています。
蕃秀とは何か?文字の意味と自然のイメージ
「蕃秀(ばんしゅう)」という言葉を分解すると、それぞれに深い意味があります。
- 蕃(ばん) … 繁茂する、草木がよく茂る
- 秀(しゅう) … 秀でる、花や実があらわれる、華やかさ
これらを合わせた「蕃秀」は、まさに命が満ちあふれ、自然が最も勢いよく躍動する時期を象徴しています。田畑では稲が伸び、森では緑が濃くなり、花々が咲き誇る。そうした「生命の絶頂期」を、古人は「蕃秀」という言葉に託したのです。
夏と五行
1. 「火」に属す
五行説で「夏」は「火」に分類されます。
五行説とは古代中国の自然哲学で、万物は「木・火・土・金・水」の5つの要素に分類できるというものです。
下記の五行色体表は色々なものを五行に分けて分類して表にしたものです。

上の「五行色体表」の「火」を縦に見ていくと、6番目の「五季」に「夏」とあるのがわかります。そして、その下の「五臓」は「心」、一番下の「五液」には「汗」とあります。つまり、心臓や汗、他にも血脈や苦味などはどれも夏と同じく火に属していて、これらは全てつながりがあるということです。
2. 夏と「心」
五臓の「心」は単なる「心臓」ではなく、精神活動(神)、意識、思考、感情などを司る中枢とされます。*参考:「東洋医学からみる心臓の働き」
また、五行説で「心」は「火」に属し、夏・南・赤・舌・血脈などと対応します。夏は自然界の「火」の氣が強まり、それに応じて「心」も活発になります。
これは本来、自然な現象であり「心」がしっかり働いて精神が安定し、血脈がよく巡るという、健やかな状態を示します。
しかし、「火」は熱を持ち、上昇する性質があるため、「心の火(熱)」=「心火」が過剰になると、熱が上昇し、精神や睡眠、循環系に異常が生じやすくなります。
心火が影響する代表的な病態
- 不眠症(特に入眠困難や夢が多い)
- 情緒不安定(怒り・焦り・ヒステリー傾向)
- 口腔トラブル(口内炎・口臭・口渇)
- 高血圧や動悸

ですから、夏はこの「心火」を抑える生活を心がけることが必要となります。
次は、夏の養生法を見ていきましょう!
『黄帝内経』に見る夏の養生法
『黄帝内経・素問』の「四気調神大論篇」では、四季の変化に応じた心身の調え方が説かれています。夏については、以下のような記述があります。
夏三月、此謂蕃秀。天地氣交、萬物華實。夜臥早起、無厭於日。使志無怒、使華英成秀、使氣得洩、若所愛在外。此夏氣之應、養長之道也。
この文を意訳すると、次のようになります。
- 夏の三ヶ月は「蕃秀」といい、天地の陽氣が盛んに交わり、万物が花を咲かせ、実を結ぶ時期である。
- 夜は遅く、朝は早く起きて、太陽の恩恵を十分に受ける。
- 心は穏やかに保ち、怒りを避けて、氣持ちを開放させる。
- 汗をかいて体内の氣を外に発散させることが大切。
- 自然に心を向けて、まるで大切なものが外にあるように生きる。
つまり、夏は自然界の陽氣が極まり、心身ともに外へ向かう“開放”と“発散”の季節であり、また万物が“成長”する生命力に満ちた時期です。それに逆らわず、陽氣に調和する生き方が健康の鍵となるのです。
現代生活に活かす「蕃秀」の知恵
この古典の教えを、現代の生活にどう取り入れることができるでしょうか?いくつかの実践的なポイントをご紹介します。
1. 遅寝早起き
「夜は少し遅く寝て、朝は早く起きる」
遅寝と言っても、24時前には就寝しましょう。朝は5時から6時くらいに起きると良いと思います。日が長い夏は、自然のリズムに合わせて活動時間も延ばすのが良いとされます。
2. 昼寝
東洋医学において、夏の昼寝は「養心安神(ようしんあんしん)」や「補気養陰(ほきよういん)」といった観点から重要な役割を果たします。
1) 心を養い、神(精神)を安定させる:養心安神
夏は五行で「火」に属し、「心(しん)」と対応します。「心」は血脈を司り、精神活動(=神)をコントロールする臓です。
暑さによって心火が旺盛になると、精神不安・焦燥・不眠・動悸などの症状が現れやすくなります。
→ 昼寝によって心身を一時的にリセットすることで、心気を安定させ、神明を回復させる効果があります。
2) 陰を養い、暑邪に備える:補気養陰
夏は陽気が極まる季節ですが、汗をかくことで「氣」と「津液(体液)」が消耗されやすくなります。これが続くと陰虚の状態になり、体がだるい、寝苦しい、のぼせるといった不調が出やすくなります。
→ 昼寝をすることで陰液の回復を助け、氣血の巡りを整えることができます。特に「陰虚火旺」体質の人には有効です。
3)子午流注との関係:午の刻(11時~13時)に休息を
東洋医学では一日の氣の流れを「子午流注(しごるちゅう)」で説明します。「午の刻」(正午)は「心経」に氣血が最も集まる時間帯とされ、心を労わるべき時間です。
→ 午の刻に短時間(20〜30分)の昼寝をすることは、心を補養し、午後の活動に備えるための理にかなった習慣とされます。
*東洋医学では、人体の氣血の流れは1日24時間の間に12の経絡を2時間ごとに順番に巡ると考えます。この理論を「子午流注」と呼び、各時間帯ごとに最も活発になる臓腑(臓器・経絡)が定められています。
注意点:昼寝の取り方にも「節度」が必要
- 長時間の昼寝(1時間以上)はかえって脾の氣を損ない、だるさや夜の不眠を引き起こすことがあります。
- 昼寝の理想は20〜30分程度。横になるのが難しい場合は、座ったままでも効果があります。
- 汗をかいた後すぐの昼寝は風邪を引きやすいので、体を拭いて涼しい環境で行うことが大切です。
3. 適度な発汗
夏の運動における養生のポイントは、「発汗を促して体の熱と氣を外に逃がし、陽氣を発散させつつも、心と氣を消耗しすぎないこと」です。
東洋医学では夏は「陽盛の季節」であり、陽氣の通達(のびやかさ)を助けるような運動が勧められます。冷房などで汗を止めすぎると、陽氣がこもり、秋以降の不調の原因になります。適度な発汗を促す工夫もおすすめです。
また、通気性のよい服装や自然の風を活用すると良いです。
1)「動中求静」:激しすぎない運動を
- 夏は心火が旺盛になりすぎやすい季節。激しい筋トレや炎天下での長時間運動は、汗と共に「心陰」を傷め、動悸・不眠・疲労感につながります。
- 軽めの有酸素運動や太極拳、気功、ヨガなど「動の中に静けさのある運動」が理想的です。
2)朝か夕方、涼しい時間帯に行う
- 日中(11時~15時)は陽気が最も盛んな時間で、心臓に負担がかかりやすいため避けて下さい。
- 早朝(5~7時)または夕方(17~19時)が最適です。
3)発汗後のケアを忘れずに
- 汗をかいた後はすぐに冷風に当たらず、汗をふき、着替えて身体を冷やさないことです。
- 発汗後には常温の水か白湯や塩分・ミネラルを含む飲料で適切な補水をして下さい。
4)避けたい運動
- 炎天下でのランニング・登山・球技など(心氣消耗が激しいです)
- 冷房の効いたジムでのハードトレーニング(陽氣を内に閉じ込めやすく、秋の病の元になります)
4. 飲食の養生
1)苦味と酸味を適度に摂る
① 苦味
東洋医学では、「苦味は心に入る」とされており、五味の中で「火」に属します。つまり、苦味には心に作用しやすい性質があります。
さらに重要なのは苦味の働きには「瀉火・清熱」の性質があるということです。
苦味の食材は、体内の余分な「熱」を冷まし、特に心火を抑える作用があるとされます。これは「苦寒清心(くかんせいしん)」と呼ばれる理論で、苦味で寒性を持つ薬や食材によって、心の熱(=心火)を冷ます作用のことです。
- 苦瓜(にがうり)
- レタス
- よもぎ
- アスパラガス
- ごぼう
- 緑茶(涼性でやや苦味あり)
- ジャスミン茶
これらは、心火が亢進しやすい夏に非常に適した食材です。
② 酸味
酸味には汗腺の開きを引き締めて、津液の漏れを防ぐ作用があるため、過度な発汗を抑え、体内の潤いを守る役目を果たします。酸味は「肝」に帰経し、肝氣を引き締め安定させる作用があります。
五行説では「木(肝)」が「火(心)」を生む関係であるため、酸味で肝が安定すれば、心を助け負担を減らすことができます。
また、酸味には唾液の分泌を促進し、胃腸の働きを高める作用もあるので、夏の暑さで胃腸機能が弱っている時には、酸味の軽い刺激が食欲を引き出す助けになります。
- 梅干し
- トマト
- ゆず
- オレンジ
- レモン
- びわ
- マンゴー
- キウイフルーツ
2)水分補給は「温かめ」に
- 冷水よりも、常温~ぬるめの白湯や薄めの番茶が理想的。氷はなるべく避けましょう。
5. 冷やしすぎに注意
1)冷たい飲食物を摂りすぎない
東洋医学では、「夏は暑いから冷たいものが欲しくなるけれど、冷たいものの摂りすぎはかえって体を弱らせる」とされています。
① 脾胃(ひい)を傷めるから
- 東洋医学では「脾胃(消化器系)」が飲食物を氣血に変える源です。
- 「脾は温を好み、寒を嫌う」と言われ、冷たいものは脾胃の働きを弱めてしまいます。
- 冷たい物が胃腸に入ると、「消化力が弱まり、食欲不振・腹痛・下痢」などが起こります。
特に汗をかいているときは、胃腸の陽氣が外に発散しているため、内側(胃腸)が冷えやすい状態に。
② 内湿(ないしつ)がたまりやすくなる
- 冷たい飲食物は体の「陽氣」を抑え、水分代謝を滞らせます。
- 夏は湿度が高いため、体は「湿」をためこみやすくなっています。
- 冷たい物の摂取で「脾の運化(体内の水はけ)能力」が弱ると、体内に湿邪がたまり「だるさ・重さ・むくみ・頭がぼーっとする」などの症状が出やすくなります。
③ 表裏不調(ひょうりふちょう)を引き起こす
- 夏は「陽氣が体表にあって、毛穴が開いている」状態です。
- このとき冷たいものを摂りすぎると、体表は暑いのに内側が冷える「外熱内寒(がいねつないかん)」というアンバランスが起こります。
結果として
- 外は汗をかいているのに、胃腸は冷えていて消化不良が起こります。
- 暑さで頭はボーッとし、下痢や胃もたれが起きます。
④ 陽氣の消耗を助長する
- 夏は「陽氣」が自然界や体内で最も活発になる季節ですが、陽氣はとても繊細で冷たい刺激に弱いです。
- 冷たいものを摂ることで、「陽氣」が消耗されてしまい、秋の冷えや免疫力低下が現れることがあります。
これが、「冬病夏治(とうびょうかち)」の逆を行く習慣にもなりうるのです。
*こんな症状が出ていたら「冷たいものの摂りすぎ」かもしれません・・・・
- 食欲がわかない
- 下痢・軟便が続く
- お腹や腰が冷える
- 手足がだるい・重い
- 朝起きても疲れがとれない
- 舌が白く膩(ぬめ)っている
2)冷房は適温で
東洋医学では、人の生命活動は「陽氣(ようき)」によって支えられているとされます。特に夏は、自然界も人体も陽氣が最も盛んな季節です。そんな時期に冷房が効いた部屋に長時間いると・・・。
① 「陽氣」を損ないやすくなる
上記でも説明したように、夏は「陽氣が体表にあって、毛穴が開いている」状態です。そんなところに冷たい寒氣に当たると、体表の陽氣が奪われてしまいます。
- 陽氣が不足 → 体が冷え、血流が悪くなり、免疫力も低下します。
- 秋に風邪をひきやすくなり、冷え性や生理痛が悪化するなどの症状が起こります。
② 「風寒の邪」が体に侵入しやすくなる
冷房にあたりすぎて体表の陽氣が奪われると、「風寒の邪」が体に入りやすくなってしまいます。
- 風邪(ふうじゃ):冷房の風で首・背中・肩が冷え、経絡が詰まりやすくなります。
- 寒邪(かんじゃ):深部まで冷えて、関節痛や内臓の働き低下につながります。
特に「首・肩・背中・足首」などは冷えの入り口(風門・風池などのツボ)なので要注意です。
③発汗できない
上記でも説明したように、適度な発汗が夏の養生の一つでもあります。しかし、冷房の効いた場所では、体表の陽氣が奪われ、毛穴も閉じ、汗が体内にこもって湿が溜まりやすくなります。
6. 心(しん)の養生
怒りや不満を溜めるのではなく、感情を適度に「発散」することも養生の一つです。夏は人との交流を大切にし、心を開いて過ごすと良いです。
1)感情の波を穏やかに保つ
- 夏は「心」が活性化しすぎてイライラ・不眠・動悸などが起こりやすいです。
- 穏やかな音楽、読書、自然とのふれあいなどで「心神安寧」を図りましょう。
2)睡眠環境を整える
- 夜間は軽く冷房・除湿しながら、安眠できる温度(26~28℃)にしましょう。
7. 自然の中で過ごす時間を意識的に増やす
朝の散歩や軽いガーデニングなど、「外に向かう」活動を取り入れることで、自然との一体感を取り戻せます。

「蕃秀」とは、自然界における生命の最盛期を意味する言葉ですが、それは人間にとっても同じです。心と体を開き、陽氣に乗じて自身を伸ばしていく――それが夏の養生の真髄です。
次は、冬の病を夏に治すための「三伏灸(さんぷくきゅう)」についてお伝えします。
三伏さ灸
三伏灸とは、夏の最も暑い時期(三伏)に特定のツボにお灸をすることで、体の中の寒邪(かんじゃ)を追い出し、冬の病を防ぐという中医学の知恵です。主に「冬病夏治(とうびょうかち)」の実践法の一つとして知られています。特に寒証(冷えに起因する慢性的な疾患)を体の芯から改善する目的で行われます。
三伏灸の概要
三伏とは、一年で最も暑いとされる「初伏・中伏・末伏」の三つの時期を指します。
1. 「三伏」とは?
- 初伏(しょふく):夏至の後の3回目の庚(かのえ)の日から10日間
- 中伏(ちゅうふく):初伏から10日後(4回目の庚の日)から10日間
- 末伏(まっぷく):立秋後の最初の庚の日から10日間
三伏の期間は約30日間で、だいたい7月中旬〜8月中旬に該当します。
2. 2025年の三伏日
区分 | 日付 | 説明 |
---|---|---|
初伏 | 7月20日(日) | 夏至後の3回目の庚の日 |
中伏 | 7月30日(水) | 初伏から10日後(通常) |
末伏 | 8月9日(土) | 立秋後の最初の庚の日 |
この三日間のいずれか、または全ての日にお灸をするのが一般的です。
ちなみに2025年の三伏期間は7月20日から8月18日までの30日間です。この期間中であれば、連続して数回行っても大丈夫です。
これを3年続けることで、冬の病を改善できると言われています!
3. どうして「庚の日」なのか?
「庚(かのえ)」は十干の一つで、十干とは五行(木・火・土・金・水)と陰陽(陽=兄、陰=弟)を組み合わせたものです。

上の図を見ると、五行説で「庚」は金の陽であることがわかり、金の陰である「辛(かのと)」より金の要素が強く出ます。そして、「庚」を季節に置き換えると「秋」となります。「辛」も秋ですが、「庚」の方が力強い秋です。
つまり、夏の暑い時期の庚の日というのは次の季節である秋の気配を感じさせる日であると言えます。
また、五行説で夏の「火」は、秋(庚)の「金」を溶かす「火剋金」の関係です。
つまり、夏の勢いがとても盛んで秋の気配すら降伏させる日(三伏)ということで庚の日に行うのだと考えられます。(諸説あって、正直なところどれが正しいのかわかりませんが、私はこのように捉えました。)
三伏灸の目的と理論背景
1. 「冬病夏治(とうびょうかち)」の考え方
- 寒さに弱い慢性病(喘息、アレルギー性鼻炎、関節痛、冷え性など)は、夏の最も陽氣が盛んな時期に治療すると改善しやすいとされます。
- この理論は、『黄帝内経』の「春夏養陽・秋冬養陰」という養生思想に基づいています。
2. 三伏灸の目的
- 冬に悪化しやすい病(=冬病)を、夏の陽氣と外からの温熱刺激によって体内の陽氣を補い、体質を改善します。
三伏灸の施術法
1. 施術方法
- 唐辛子・細辛・乾姜・白芥子などの温熱・発散性のある生薬を混ぜた薬膏を経穴に貼る方法(三伏貼)*中医師などの専門家の指導のもとで行って下さい。
- 生姜を5ミリくらいの厚さに切り、その上に艾をのせて経穴にお灸をする方法。
- 上記のものを用意できない場合は、市販のせんねん灸などでお灸をする方法でも良いです。
2. よく使われる経穴(ツボ)
経穴名 | 所属経絡 | 主な作用・目的 |
---|---|---|
大椎(だいつい) | 督脈 | 陽気を補い、風寒を散らす。免疫力強化。 |
肺兪(はいゆ) | 膀胱経 | 肺を補い、呼吸器系を強化。喘息・慢性咳に有効。 |
風門(ふうもん) | 膀胱経 | 風邪の入口を守る「関所」。感冒の予防に。 |
膈兪(かくゆ) | 膀胱経 | 気血の運行を促進し、全身調整。 |
命門(めいもん) | 督脈 | 腎陽補助、精気の強化 |
腎兪(じんゆ) | 膀胱経 | 腎陽を補い、体力・抵抗力を高める。 |
足三里(あしさんり) | 胃経 | 気を補い、脾胃を強化し、全身の活力を底上げ。 |
中脘(ちゅうかん) | 任脈 | 胃腸を整える。内臓の機能向上に。 |
関元(かんげん) | 任脈 | 気を補い、下焦(下半身)の虚弱を改善。 |






3. 一般的な経穴数の目安
三伏灸で使う経穴の数は、一般的には3〜6穴程度が主流です。ただし、体質・症状・施術方針によって増減します。
経穴数 | 適応や背景 |
---|---|
3〜4穴 | 体力が弱い、初めての施灸、子ども・高齢者など。基本的な補陽を目的とする。 |
5〜6穴 | 呼吸器疾患や冷えが強く、しっかり補陽・補腎をしたい場合。大人で体力がある人向け。 |
7穴以上 | 比較的まれ。重症例や慢性病に対し、熟練の鍼灸師が施術するケース。ツボの選定と刺激量の調整が重要。 |
● 体質・症状別の使用ツボセット
体質・症状 | 主な経穴(◎=中心、◯=補助) | 主な目的・効果 |
---|---|---|
呼吸器虚弱・喘息・慢性咳 | ◎大椎、◎肺兪、◎風門、◯膈兪、◯足三里 | 肺気を補い、風寒を防ぐ。喘息・咳の予防。 |
冷え性・陽虚体質 | ◎大椎、◎命門、◎腎兪、◯関元、◯足三里 | 腎陽を温め、冷え・疲労感・頻尿を改善。 |
慢性疲労・虚弱体質 | ◎足三里、◎関元、◎膈兪、◯中脘、◯命門 | 気血を補い、消化機能と免疫を向上。 |
胃腸虚弱・食欲不振 | ◎中脘、◎足三里、◯関元、◯膈兪 | 脾胃の働きを補い、夏バテ防止。 |
アレルギー体質(鼻炎・花粉症) | ◎風門、◎肺兪、◯大椎、◯合谷、◯足三里 | 肺衛を強化し、免疫の過剰反応を緩和。 |
婦人科疾患(冷え・生理不順) | ◎関元、◎命門、◎腎兪、◯中極、◯足三里 | 陽気を温補し、子宮・卵巣機能を調整。 |
慢性関節痛・冷えによる痺れ | ◎大椎、◎命門、◎腎兪、◯陽池、◯足三里 | 関節の寒湿を祓い、気血の巡りを改善。 |
- ◎:主穴(基本的に毎回使う)
- ◯:随証穴(体質や症状に応じて選ぶ)
- 患者の体力や体質に応じて施灸時間や灸の強さを調整
- 目安の使用数は 3〜6穴前後
● 経穴数を増やせば良いとは限らない
三伏灸は「陽氣を補う温熱刺激」なので、ツボが多すぎると逆に体力を消耗させる場合もあります。
4. 適応症と注意点
適応される病
- 気管支喘息、慢性気管支炎、アレルギー性鼻炎、風邪をひきやすい体質
- 消化不良、慢性下痢、冷え性、関節痛、月経不順などの「寒証」に由来する疾患
*注意点
- 発熱中や喘息の発作、感染症状や皮膚疾患がある人、体力が極端に落ちている人は避ける。
- 2歳以下の子どもや妊婦はやらない。
- 熱性体質(ほてり・のぼせ・赤ら顔など)の人には不向きな場合がある。
- 皮膚が敏感な人は軽度のやけどや水疱ができることもある。
- 中医師や鍼灸師などの専門家の指導を受けることが望ましい。
動画
上記のことをまとめた動画もありますので、こちらも是非ご視聴ください!

いかがでしたか?
「冬のつらさを、夏で癒す」これが東洋医学が教えてくれる体づくりの知恵です。
一年中不調と付き合うのではなく、季節を味方にして“今”できることを少しずつ始めてみませんか?
まずは、食事を見直す、体を温めるなど、小さな一歩からでOKです。
今年の夏が、来る冬のあなたの元氣を支えてくれるはずです。