五臓と感情

東洋医学
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momo
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突然ですが、感情はどこから湧き起こるのでしょうか?
こころ?それとも脳?


私が鍼灸師になる前のまだ東洋医学についてもよくわからなかった頃、とあるセミナーで「恐れと腎臓は関係しているから。」みたいなことを言っており、「感情と内臓とが関係しているって一体どういうことなんだろう???」ととても不思議で、当時の私にはそれがあまりにもぶっ飛んだ発想に思えて、そこから東洋医学に興味を持ったように思います。

実際、感情がどこから湧いてくるものなのかを目で確認することはできませんが、東洋医学では感情は五臓が生み出すものと言われています。今の私にはそれはもう当たり前の知識として定着してしまいましたが、今初めてこれを聞いたという人はどう感じていらっしゃるのでしょう。

今回は五臓と感情についてお伝えしていきます。

 五臓

五臓とは「肝・心・脾・肺・腎」の五つのことを言います。

東洋医学ではこの五臓を単に体を構成する内臓とは捉えておらず、人体の生理的・病理的な現象はもちろんのこと、精神活動の中心となるものとしても捉えています。

中国最古の医学書である黄帝内経の『素問・陰陽応象大論第五』では、「人の五臓には五つの精神的な働き、即ち、肝は怒、心は喜、脾は思、肺は憂、腎は恐の感情を生じるものである。」と書かれてあります。つまり、人間の感情は五臓の生理活動によって生じているということです。そして、これを五志(怒・喜・思・憂・恐)=五情と言います。


喜・怒・哀・楽などの情動に変調が起こると、体の気の巡りに影響を与え、様々な弊害をもたらすことになります。同じように五志(怒・喜・思・憂・恐)=五情に変調があれば、特定の臓器にも障害をもたらす病因となります。

感情は脳が生み出している訳でも、こころが生み出している訳でもなく、「内臓」が生み出していており、そして、過度な感情というものは時に病気の原因にもなってしまうということです。

 心

現代では思考も感情も精神活動の一面とされていますが、古代中国では「神(しん)=神気」という気が感情、意識、睡眠、思惟活動など全ての精神活動を担っており、「神」が充実して健全に働けば、情動が人の心を乱すことはなく、「神」に乱れが起きた時、人は情動のままに動いて心を乱し、それがまた「神」を不安定にするとして、「神」と「情」とは別々のものと考えていました。


そして、この「神」を蔵しているところが「心」となります。つまり、心は感情を統括しているということです。


心が蔵する「神」が安定している時は、知覚・記憶・思考・意識・判断など、全ての精神活動をきちんとコントロールし、状況に応じた的確な行動が可能で、生体機能も健全に維持されます。また、五臓六腑が調和を保って活動するように統括しているので、動作・言語・表情などの意識的活動や心拍動・呼吸・消化吸収・排泄などの無意識的活動も適切に行われます。

しかし、過度な感情や過労などによって「神」が不安定となり「心」が病むと、精神活動に異常が現れやすく、躁鬱などの精神病や意識障害の症状として現れることがあります。また、心は血脈をつかさどっていたり、顔や舌とも関係があるので、血液循環や顔の色つや、言語障害・味覚障害などの異常として現れることがあります。


「心」が病む原因の一つとしては、過度の感情が引き起こすものがあります。
「心」は喜びが生み出されるところです。喜びや笑いは心を和ませ、血の循環を促しますが、逆に笑いや喜びが度を越えると「心」を損ねて心病を引き起こします。また、精神的なストレスは「神」を不安定にさせ「心」を病む原因となります。

 肝

肝は「魂」という気を蔵し、判断力や計画性などの精神活動を支配します。また、身体活動を円滑に行わせたり、休息を指揮し、生体防衛にも係っています。ですから、肝がしっかりしていれば、身体の内外の変化に素早く対応して適切な対応がとることができます。しかし、肝が不健全だと、イライラいしたり、逆におどおどしたりするようになります

「肝」が病む原因の一つに「怒り」という感情があります。
『素問 陰陽応象大論第五』では「肝は怒の感情を生じ」「過度の怒りは肝を傷る」とあり、怒りすぎると肝病を引き起こすと書かれてあります。また、肝が病むと冷静な判断力が失われたり、怒りやすくなったり、びくびくするようになります。そして、肝の変調は目・筋肉・爪・月経などに現れてきます。

 脾

脾には飲食物の消化吸収、水分代謝、気血の生成、統血などの働きがあります。これらの働きが主なので、心や肝ほど大きく精神や感情に関わる働きはないのですが、でも、脾は「思」という感情を生み出しています。「思」とは考えることです。

私たちは思い煩う時、食欲がなくなったり、胃が痛くなったり、体が冷えたり、下痢をしたりします。
脾の病の原因の一つにはこの「思い煩う」ということがあります。考え過ぎたり、心配し過ぎたり、悩み過ぎたりするということは脾を傷ることになり、脾が病むと食欲不振・膨満感・消化不良・倦怠感・浮腫・血尿などの症状が出ることがあります。

 肺

肺は気をつかさどっており、呼吸機能を有しています。また、体の津液を全身に巡らせています。肺の働きが正常であると、呼吸は深くゆったりと正しく行われ、全身の気が充実して、発声も力強くなります。


肺は「憂」の感情が生まれるところです。「憂」は一般的には「思い悩んだり、心配する」という意味になるのですが、東洋医学では「悲しみ」の意味になります。肺は「悲しみ」の感情が生まれるところなのです。ですから、悲しみ過ぎると肺を傷ることになり、肺が病むと呼吸の異常や発声の異常が起こります。また、肺は皮毛や鼻などとも関係しているので、それらにも異常が現れることがあります。

 腎

腎は「精」を蔵し、生命力の根源である原気をもたらします。「精」というのは生命力や成長、生殖力の根源のことです。また、腎は全身の水分代謝を調節したり、骨・耳・髪・歯とも関係しています。


腎は「恐」の感情を生むところです。ですから過度の恐れは腎を傷ることになります。
腎が病むと疾病にかかりやすくなったり、治りにくくなったり、水分代謝の失調、発育の遅れ、生殖機能の低下、不妊症、耳鳴り、難聴などが現れることがあります。

 まとめ

感情は五臓から生まれるというのは東洋医学の常識です。
全ての感情は必要だから生まれます。
でも、この感情が度を過ぎてしまうと、五臓を傷つけ、健康を損ねる原因ともなります。
ですから、感情と上手く付き合っていくことが健康維持の一つの方法となります。


生きていると日々様々な感情が生まれてきます。
人によっては感情を押し殺したり、溜め込んだり、なかったものにしたり、逆に爆発させたり・・・と感情と向き合うことが難しかったりしますよね。


でも、感情を無視することが一番良くないことです。わき起こる感情はしっかりと感じ切る。そして、
その感情としっかり向き合う。向き合って、感じ切って、そして、その感情と和解する。和解の方法は人それぞれです。映画を観て和解できる人もいれば、お風呂に入って和解できる人もいるかもしれないし、本を読んだり、音楽を聴いたり、旅をしたり、人と話したり・・・。


大切なのは、視点を変えること。その感情が沸き起こってきた出来事に対する考え方の視点を変えることができるかどうかが、その感情と和解できるかどうかのポイントとなります。
全ての感情は自分に必要だからわいてくるのです。
そして、その感情を悪いものにするか良いものにするか、どう活かすかは自分次第です。

「怒り」があるから、人はその怒りを行動に移すことができます。

「喜び」があるから、人はそこに調和をもたらすことができます。

「心配」があるから、人は物事に対して真剣に向き合うことができます。

「悲しみ」があるから、人は失ったものの大きさに気づき、乗り越え、強くなれます。

「恐れ」があるから、人は自分たちを守り、生存することができます。

参考文献
『東洋医学概論』(医道の日本社)
『東洋医学の教科書』(ナツメ社)
『中国漢方医学概論』(中国漢方)

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